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大阪高等裁判所 昭和49年(ネ)77号 判決 1974年11月27日

昭和四九年(ネ)第一号事件控訴人、同第七七号事件被控訴人

同第九八〇号事件附帯被控訴人(以下一審被告という)

山崎機材株式会社

右代表者

山崎三栄

昭和四九年(ネ)第一号事件控訴人、同第七七号事件被控訴人

同第九八〇号事件附帯被控訴人(以下一審被告という)

山崎三栄

右両名訴訟代理人

上村昇

昭和四九年(ネ)第一号事件被控訴人、同第九八〇号事件附帯控訴人

(以下一審原告という)

山田花子(仮名)

昭和四九年(ネ)第七七号事件控訴人 (以下一審原告という)

山田一郎(仮名)

右両名訴訟代理人

榎本駿一郎

外一名

主文

1  一審被告両名の控訴並びに一審原告花子の附帯控訴に基づき、原判決中一審原告花子に関する部分を次のとおり変更する。

一審被告両名は各自一審原告花子に対し金五三二万三、七三八円及び内金四八六万三、七三八円に対する昭和四五年一〇月二八日以降、内金四六万円に対する同四七年八月二七日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

一審原告花子のその余の請求を棄却する。

2  一審原告一郎の控訴に基づき、原判決中一審原告一郎に関する部分を取消す。

一審被告両名は各自一審原告一郎に対し金一一〇万円及び内金一〇〇万円に対する昭和四五年一〇月二八日以降、内金一〇万円に対する同四七年八月二七日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じ、一審原告花子の要した費用の五分の一を一審原告花子の負担とし、その余は全部一審被告両名の負担とする。

4  本判決主文第一、第二項中、一審被告両名に対し金員支払を命じた部分に限り、仮に執行することができる。

事実

(申立)

一、昭和四九年(ネ)第一号事件

1  一審被告両名

原判決中一審被告ら敗訴部分を取消す。

一審原告花子の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも一審原告花子の負担とする。

2  一審原告花子

一審被告らの控訴を棄却する。

控訴費用は一審被告らの負担とする。

二、昭和四九年(ネ)第七七号事件

1  一審原告一郎

原判決中一審原告一郎に関する部分を取消す。

一審被告らは、各自一審原告一郎に対し金一一〇万円及び内金一〇〇万円に対する昭和四五年一〇月二八日以降、内金一〇万円に対する同四七年八月二七日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも一審被告らの連帯負担とする。

仮執行の宣言。

2  一審被告両名

一審原告一郎の控訴を棄却する。

控訴費用は一審原告一郎の負担とする。

三、昭和四九年(ネ)第九八〇号(附帯控訴)事件

1  一審原告花子

原判決中一審原告花子敗訴部分を取消す。

一審被告らは、各自一審原告花子に対し金六九二万五、〇九八円及び内金六二九万六、〇九八円に対する昭和四五年一〇月二八日以降、内金六二万九、〇〇〇円に対する同四七年八月二七日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも一審被告らの連帯負担とする。

仮執行の宣言。

2  一審被告両名

一審原告花子の附帯控訴を棄却する。

附帯控訴費用は一審原告花子の負担とする。

(当事者双方の主張、証拠関係)

次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示に記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

一、一審原告花子の主張とその主張に関する部分<省略>

二、一審原告一郎の主張

一審原告花子の本件事故に因る傷害、後遺症により同一郎の受けた日常生活上とくに夫婦生活上の苦難は、同花子の生命を害された場合にも比肩し、この場合に劣らない程度のものであつて、それは単に近親者の死亡等による精神的苦痛というに止まらず、一審原告一郎自身が直接に受けた人間生活上の損失である。従つて、一審原告一郎の右慰藉料請求については、民法七一一条の規定のみでなく、同法七〇九条、七一〇条の規定による損害賠償に値するものとしてその損害の相当因果関係、賠償額の算定についての考慮がなされるべきである。

三、一番被告両名の主張

1  (一審原告花子の逸失利益の主張について)<省略>

2  (一審原告花子の家政婦賃の主張について)

一般的に義足の着装に慣れるには一年から一年半の期間で足りるとされており、右着装に慣れることにより家政婦を雇う必要も無くなるわけであり、現実に一審原告らが家政婦を雇つたのは昭和四八年八月までである。五年間の家政婦賃の請求は過大である。

3  (一審原告花子の居間等改造費について)

一審原告花子が義足の着装に慣れることによつて、夫である一審原告一郎と共に家庭生活を送るのにさしたる不便は無い筈であり、その主張する居間等改造の必要なるものは、一審原告花子が前記会社の御坊出張所長又は販売員としての仕事の便宜を考慮してのものということができ、これが本件事故と相当因果関係のあるものといえるか疑問である。のみならず、仮に改造の必要があつたとしても、その主張によれば、床面積五四平方メートル〇九の家屋に対し四〇パーセントに近い二〇平方メートルの増築を含んでいるものであつて、この総てが本件事故と相当因果関係のあるものとはいえない。一審原告花子の居間等改造費に関する主張は、その理由がないか、仮に一部理由があるとしても過大な請求というべきである。

4  一審原告一郎の慰藉料請求は、何ら法律上の根拠のないものである。

四、証拠関係<省略>

理由

一昭和四五年一〇月二八日午前一一時ごろ、和歌山県日高郡由良町里一、一九三番地先国道四二号線道路上において、一審被告会社の代表取締役である一審被告山崎三栄が一審被告会社の業務のため同会社所有の普通乗用自動車を運転して南進中、先行車を追越すため道路右側部分へ出たものの、先行車の前にも他の車両が連続して進行していたため追越しを完了して道路左側に戻ることができずに進行していたところ、対向して進行して来た一審原告花子運転の原動機付自転車と道路右側端付近で衝突し、この交通事故により一審原告花子が負傷したことは当事者間に争いない。

右事実によれば、本件事故は、一審原告山崎三栄の前方不注視、追越不適当、右側通行等の過失に基因するものであり、一審被告山崎三栄は民法七〇九条により被害者に対して損害賠償を為す義務があり、一審被告会社も、自賠法三条、民法四四条により同様損害賠償の義務があるというべきである。

二<証拠>によると、一審原告花子は、本件事故により右大腿切断、右骨盤骨折、右大腿頸部粉砕骨折、左下腿擦過創等の傷害を受け、直ちに御坊市所在北裏病院に入院し、昭和四六年八月一四日まで同病院に入院治療を受け、退院後も同年一二月末頃まで毎週一回の割合で通院治療を受けたこと、入院後翌年二月ごろまでは激痛があり鎮痛剤、睡眠剤等の投与を受けてこれを凌いでいたこと、右下肢をその膝関節以上で失い、義足を用いても右骨盤骨折、右大腿頸部粉砕骨折の為に義足の使用が意の如くにならず、松棄杖の使用を止められず、日常生活全般にわたつて不自由な状態に在ることが認められる。

三(一審原告花子の損害)

1  入院雑費 八万七、三〇〇円

入院雑費について特段の立証はないが、右認定の傷害の部位程度からして、一日三〇〇円の割合で入院期間二九一日分の八万七、三〇〇円が相当であると認める。

2  義足、杖の費用 一四万一、三七〇円

<証拠>によれば、前認定のとおり一審原告花子は義足、松棄杖の使用を必要とし、その購入、調整等の代金として合計一四万一、三七〇円を支出したと認められる。

3  逸失利益 四二〇万五、〇六八円

<証拠>によると、

「一審原告花子は、昭和四〇年頃から訴外ゲオール化学株式会社の化粧品の販売員となり、その販売金額に応じて一定の割合による歩合金の支給を受けていた。この化粧品販売は家庭にある婦人を対象とするものであるため、各家庭を訪問して販売をする必要があつた。ところが、一審原告花子は、本件事故による入院、退院後においても前認定の後遺症状のために外出が極めて困難となつたことから、訪問販売ができなくなり、わずかに自宅に来てくれる従前の顧客に販売する程度となつた。そのため事故前一年間(昭和四四年一一月から同四五年一〇月まで)において支給を受けた歩合金が合計四八万三、一八四円であつたのに、事故後においては、昭和四五年一一月以降の一年間が一九万二、五九九円、同四六年一一月以降の一年間が一五万二、六〇二円、同四七年一一月以降の一年間が一四万二、五三五円と減少するに至つた。右化粧品販売は、時間的拘束も無く、顧客も若年層に限定されないもので、家庭の主婦においても顧客を確保すれば安定した収入があり、婦人一般の就業年令頃までは従事できる職種である。しかし、一審原告花子としては前認定の後遺症のため、事故前における程度の歩合金収入を回復することは不可能である。

との事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

右事実によれば、本件事故当時四四才で事故前まで通常の健康体の婦人であつた一審原告花子(<省略>)としては、本件事故に遇わなければ六三才までの一九年間は右認定の事故前の歩合金程度の収入を得ることができたわけであり、この額と右認定の事故後の歩合金収人との差額が一審原告花子の逸失利益というべきである。右認定の事故前一年間の歩合金収入四八万三、一八四円から事故後三年間における歩合金収入年額の平均額一六万二、五七八円を差引いた三二万〇、六〇六円が一年間の減収額というべきであり、これの事故後一九年間の合計減収額につきホフマン式計算法により年五分の割合の中間利息を控除し、事故当時における現価を計算(右計算法による係数13.116を乗じる)すると四二〇万五、〇六八円となる。なお、一審被告らは、一審原告花子が前記訴外会社御坊出張所長としての収入もあつたというが、この出張所長としての収入は右認定の販売員の収人と別個のものであることが<中略>により認められるから、出張所長としての収入の増減とは別個に販売員としての減収があつたと認めざるをえない。

4  家政婦賃 二四万円

<証拠>によると、一審原告花子は前認定の症状にあるため退院後においても家事に従事することが困難であり、そのため約一か年間、一か月四、五回の割合で家政婦を雇つたが、その他は夫である一審原告一郎や子らが主として家事を処理し、同花子においても可能な範囲で若干はこれに従事していることが認められるのであり、一審原告花子としては、その主張のように家政婦を雇うことが望ましいことは疑問がないところであるが、不自由ながらもこれを雇うことなくして日常生活が続けられているところからして、本件事故と相当因果関係があるものとして一審被告らの賠償すべき家政婦賃の範囲は、一審原告花子が現に家政婦を雇つた一か年間につき一か月二万円(一審原告花子主張の額)の割合による二四万円を相当というべきであり、これ以上は理由がない。

5  居間等改造費 五〇万円

<証拠>によれば、一審原告花子は、前認定の症状にあるため、その日常生活の便利のために、その家屋のうちの風呂、便所をはじめ、居間、台所等を改造する必要があり、その希望のように改造するためには、少なくとも一一二万五、〇〇〇円を要すること、しかし、右改造費の中には、玄関、応接間、居間等の改造、これに伴う床面積の増加等の費用も含まれていることが認められる。そうすると、右改造費全額が本件事故と相当因果関係ある損害とすることは相当でなく、右の関係あるものとして一審被告らが賠償すべき額は、右認定額の約半額の五〇万円をもつて相当とする。なお、一審原告花子は、未だ右改造に着手をしていないけれども、その症状からして、直ぐにも風呂、便所を改造することは不可欠のものと考えられるし、台所、居間等についても同様にその一部を改造しなければならないことは明らかというべきであるから、これを現在の損害と認めることは不合理ではない。

6  慰藉料 三七〇万円

前記認定のような本件事故の態様、一審原告花子の傷害、その後遺症、入通院期間等、<証拠>により認められるように、一審原告花子は今なお受傷部位に痛みを感じる時が度々あり、日常生活が極めて不自由であるに止まらず、性生活を含めて夫である一審原告一郎との夫婦生活にも困難を感じているような点、その他一切の事情を斟酌して、一審原告花子に対する慰藉料の額は、三七〇万円が相当であると認める。

7  物損

<証拠>から、本件事故により一審原告花子が当時乗用していたその所有の原動機付自転車は大破し使用不能となつたが、この車の当時の価額は二万円位であつたことが認められる。

8  弁護士費用 四六万円

以上認定の各損害額の合計額から後記一部弁済額を控除した額が一審被告らの支払うべき損害額というべきであるところ、一審被告らが任意にこれを支払わないため、一審原告花子は本件訴訟代理人弁護士らに本訴の提起追行を委任したものであることは弁論の全趣旨から明らかであり、その他本件訴訟の経過等を勘案して、一審被告らにおいて賠償すべき弁護士費用分は四六万円が相当であると認められる。

四本件事故による損害として一審原告花子が一審被告らに対し賠償を求め得る額は、右に認定した各損害額の合計九三五万三、七三八円というべきところ、自賠責保険金として三四三万円、一審被告らからの内金として六〇万円が支払われていることは、一審原告花子の自認するところであるから、これは右損害合計額から控除すべきである。

そうすると、一審原告花子の本訴請求は、一審被告らに対し各自五三二万三、七三八円と内金四八六万三、七三八円に対する昭和四五年一〇月二八日以降、内金四六万円に対する同四七年八月二七日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金支払いを求める限度において理由があるが、その余は理由がないというべきである。

五一審原告一郎の請求について。

<証拠>によると、夫である一審原告一郎としては、同花子の本件事故による受傷、その後遺症による精神的苦痛もさることながら、妻である一審原告花子の前認定のような後遺症のため、妻に代つて炊事、洗濯、掃除等家事一切を為し、更に一審原告花子の日常生活の細部に及んで世話もしなければならないのみでなく、夫婦間の性的生活も殆ど不可能であつて、その為に夫婦生活の円満を欠く有様であり、この状態の改善される見込も無いことが認められる。右のようなことは、一審原告一郎に対して相当な精神的苦痛を与えているものと認められ、しかもこれが今後改善されることなく生涯にわたつて続くということを考えると、その苦痛は、一審原告一郎固有の損害というべく、妻である一審原告花子に対する慰藉料をもつてしては償い切れないものというべきである。従つて、一審原告一郎は、同花子とは別個に、右苦痛に対する慰藉料請求権を有するといわねばならず、その慰藉料の額は一〇〇万円を相当と認める。

又、一審原告が本件訴訟を委任した弁護士に対し報酬として判決認定の慰藉料額の一割に当る額を支払うことを約したことは、一審原告一郎本人(原審)の供述により認められ、その他本件訴訟の経緯等を考慮して、一審原告一郎の請求しうべき弁護士費用は一〇万円を相当と認める。

してみると、一審被告らに対し各自一一〇万円と内金一〇〇万円に対する昭和四五年一〇月二八日以降、内金一〇万円に対する同四七年八月二七日以降各完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める一審原告一郎の請求は、全部理由があるというべきである。

六よつて、一審原告花子の請求につき右認定額と異る額を認容した原判決は相当でなく、一審被告両名の控訴及び一審原告花子の附帯控訴にもとづき原判決中一審原告花子に関する部分を本判決主文第一項のとおり変更し、一審原告一郎の控訴は理由があるから、原判決中一審原告一郎の請求を棄却した部分を取消し、その請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(井上三郎 石井玄 畑郁夫)

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